alone in the night

In the dark, in the quiet.

book: ベニスに死す

ミッドサマーが話題になっていた頃、ベニスに死すで美少年役を演じた俳優が出演していると話題になったことで本作を知った。フィルムに閉じ込められた美少年は確かにとても美しかった。8月に読んだ『香水』同様有名作品の原作を読み話を知っておく目的で本作を読んだ。

 

初老の作家が旅先のホテルで見かけた美少年の美しさに心を奪われ海岸で遊ぶ少年を目で追いかけたり家族と出歩いているところを追ったりしているうちに市(市と書いてまちと読ませていた)にコレラが蔓延する。それでも少年が滞在しているために市を去らなかった作家はついにコレラで亡くなる、という話。

知っていたけれど、タイトルがまんまオチで笑ってしまった。だが他のタイトルだとここまで有名にはならなかったのだろうな。たとえば『海辺の美少年』にすると、急に凡庸になってしまうような。元々の邦題は『ヴェネツィア客死』だったらしい。同じ意味でもベニスに死すのほうがしっくりくるし売れそう。

ベニスがヴェネツィアであることをこのとき初めて知った。英語(Venice)とイタリア語(Venezia)で発音が異なるだけだった。

 

上述の通りものすごくシンプルな中編小説なのだが、100年以上昔の作品だからかあるいは作者の作風なのか難しい言い回しが多くものすごく読みづらかった。あとやっぱり、見知らぬ美少年をねっとり見つめたりあとをつける主人公が気持ち悪かった。

 

美しいと感じた文章をここに残しておく。荷物トラブルで発ったホテルに舞い戻ることになり、足止めされたベニスでの夜を綴ったシーンで、この後荷物が戻ってきてもホテルを発つことは無かった。美少年を諦められなかったのだ。

天上には星辰が輪舞し、夜に閉された海の呟きがかすかに押し入って来て魂に語りかける夜もまたすばらしかった。

                        文庫版 ベニスに死す p74より