alone in the night

In the dark, in the quiet.

book: おやすみの歌が消えて

原題は「ONLY CHILD」。2年前に刊行された長編小説。小学校での銃撃事件で息子アンディを喪った母メリッサは、現場で射殺された犯人の両親を責め続け訴えようとする。アンディの弟であり語り手、主人公であるザックは小学校へなかなか登校できずにいて、アンディのクロゼットを秘密基地としてそこへ籠もっては感情を色紙で表し、お気に入りの本をアンディに読み聞かせる。

赤といえば怒りが連想されるのだがザックは恥ずかしさを割り当てていた。怒りは緑だ。共感は「やさしい気持ち」だからと、白で表しているところにセンスを感じた。またチャームをくれた担任や家に泊めてくれたりなど懇意に世話してくれたメアリーなど、ザックは周りに恵まれていると思った。

 

アンディが決して「いいお兄ちゃん」では無かった点が良い。学校の成績は良かったが反抗挑戦性障害(ODD)という障害持ちでよくメリッサを困らせていたりザックを馬鹿にしていた。葬式でアンディをまるで利発的な子供だったかのように話す父ジムに「ちゃんとアンディにさよならを言ったことにはならない」とザックが疑念を抱くシーンが気に入ってる。

 

恐らく障害があった犯人に適切な治療を受けさせなかったから銃撃事件が起きたのだと、メリッサは犯人の両親を訴えることにするとメディアのインタビューを受ける。事件を風化させないためにもと意気込んでいたが、どんな凄惨な事件でも関係ない他者はどうしても忘れてしまう。誰が忘れてしまっても、両親やザックが事件やアンディのことをいつまでも覚えていたらそれでいいと思う。

 

メディアに出たメリッサは犯人の両親の過失を訴えたものの、事件2ヶ月後に行われた追悼式で犯人の母親を見つけてしまい怒りが抑えられなくてつい公衆の面前で罵倒してしまう。その様子もまたカメラに回っていた。メディアは遺族の味方では無い。(誰もそんなバカなこと考えていなかったけども)。久しぶりに登校したザックは教室で嘔吐した挙げ句保健室で上級生にメリッサの悪口を言われてしまう。

しかもメディアは夜の墓地へ出向いては毎晩現場で射殺された息子の墓を訪れる犯人の父親チャーリーにまでインタビューしようとする。チャーリーは小学校の警備員でザックの親友で、ザックはチャーリーもまた息子を喪った悲しみに沈んでいることを知っていた。この加害者遺族を追うマスゴミ報道のおかげでザックはチャーリーに再会できて、結果的にこの物語は良い方向に進む。

 

ただ1点、ブルックス母子の話は好きでは無い。6歳のザックの視点で物語の全てが進むので語られることは無いが、ジムはナンシーと過去不倫関係にあったのではないだろうか。もしかすると銃撃事件で亡くなったリッキーもジムの子かもしれない。たった1人の家族リッキーを喪い、すがったジムには相手して貰えず、みるみる窶れ、ついにナンシーは謝肉祭の日に自殺してしまう。メリッサは謝肉祭に招待しなかったからだ!と落ち込むが、ナンシーがジムにあてた手紙を見つけて「私ってなんてバカだったの」と笑い、以降母子への言及はない。チャーリー夫妻やザックの一家は喪った人を胸に前を向き始めて物語は終わるが、この母子だけは2人とも死んで終わりなのだ。