alone in the night

In the dark, in the quiet.

book:香水 ある人殺しの物語

1985年に発表された本作はベストセラーということなのでとりあえず読んでみたが、正直私には合わなかった。匂いがどうの香水の調合がどうのという至る所に登場する主要な描写がつまらなく感じてしまったし、それ故多分理解してない箇所も多いだろう。娘殺しで捕まった男とどうみても同じ人物なのに”匂いで魅了されて”別人!無罪!という世界観を<そういう世界なのね>と納得出来なかった。そういう世界で物語の全てが進んでいるのに。

 

皮なめしの親方やバルディーニに侯爵、さらにラストシーンの時点(1767年)で死んでもいないマダム・ガイヤールの最期までわざわざ描写するのはどういった粘着なのかと思っていたが、グルヌイユに関わったが為に不本意な最期を遂げたということを伝えたいのかな。『母親は赤子を見捨てて行方知れず、赤子は教会に拾われ乳母に育てられました』でもいいのにわざわざ嬰児殺しで斬首刑にしたのもこのためなのかもしれない。

そしてすぐに悪魔が憑いていると気づいて手放した最初の乳母や神父のその後が特に描写されていないのは、正体に気がつき深く関わらずに済んだということ?侯爵と同時に出てきたリュミネもその後描かれていなかったような(描かれているかもしれない)。

 

生まれつき良心が欠けており、生育環境や18世紀当時の倫理観のせいでもあるのだが殺人を厭わないサイコパスがその驚異の生命力まで供えていたために何度もの危機を生き延びてしまい25人殺人が起こってしまったことがちょっとやっぱり寂しい。あと冤罪で死刑になったドリュオーかわいそう。夫を喪った工場のマダムや、娘を殺されたのに匂いに翻弄されてグルヌイユを息子にしようとした(そして当然のごとく逃げられた)リシも、死んでいないだけで相当ダメージが大きい。グルヌイユが関わった所為で。

そしてグルヌイユの最期も呆気ないしよく分からない。パリに戻って死のうという一文があり死んだのもパリなのであれは自殺でいいんだよね。はあ。